東京地方裁判所 平成12年(ワ)3228号 判決
原告 株式会社さくら銀行
右代表者代表取締役 岡田明重
右訴訟代理人弁護士 松尾翼
同 志賀剛一
同 松野豊
同 石原弘隆
同 村上義弘
被告 あさひ銀行ファイナンスサービス株式会社
右代表者代表取締役 山西千歳
右訴訟代理人弁護士 杉野翔子
同 藤林律夫
同 尾崎達夫
同 鎌田智
同 伊藤浩一
同 金子稔
主文
一 被告は、原告に対し、金六八〇〇万四三八九円及びこれに対する平成一二年二月二六日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一億〇七七五万〇〇四八円及びこれに対する平成一二年二月二六日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、競売手続において被告が受領した配当の一部につき被告は受領する権限を有しておらず、被告は本来原告が受領すべきであった配当によって利益を受け、原告に損失を及ぼしたものであると主張して、被告に対し、不当利得の返還を請求するものである。
一 争いのない事実等
1 根抵当権の設定
(一)(1) 原告は、株式会社常盤開発(以下「常盤開発」という。)と、平成二年一月二五日、同社所有の別紙物件目録記載一及び二の土地(以下それぞれ「本件土地<1>」、「本件土地<2>」といい、これらを併せて「本件各土地」ということがある。)につき、別紙根抵当権目録記載一を内容とする根抵当権設定契約をし、同日登記手続を経由した。その後、平成七年一一月二〇日、本件各土地につき、劉弘文及び尾畑トシ子への所有権一部移転の登記手続がされた。そして、同日、両者の持分に対する権利放棄を原因として、右根抵当権は、本件各土地に対する常盤開発の共有持分(以下本件土地<1>に対するものを「本件共有持分<1>」、本件土地<2>に対するものを「本件共有持分<2>」といい、これらを併せて「本件各共有持分」ということがある。)を対象とするものに変更された(甲第一号証の二、三。以下これを「本件根抵当権<1>」という。)。
(2) 原告は、常盤開発と、平成七年一一月二〇日、同社所有の別紙物件目録記載三の建物(以下「本件建物」という。)につき、別紙根抵当権目録記載二を内容とする根抵当権設定契約をし、同月二二日、登記手続を経由した(甲第一号証の一。以下「本件根抵当権<2>」という。)。
(3) (1) 及び(2) の各根抵当権については、共同担保とする登記がされている(甲第一号証の一ないし三)。
(二) 被告は、常盤開発と、平成七年一一月二二日、本件建物につき、別紙根抵当権目録記載三を内容とする根抵当権設定契約をし、同日登記手続を経由した(以下「本件根抵当権<3>」という。)。
(三) (一)(2) の根抵当権と(二)の根抵当権とは、同順位である。
2 競売の実行
常盤開発が原告に対する債務の履行を怠ったため、原告は、本件根抵当権<1>、本件根抵当権<2>に基づき、本件各共有持分及び本件建物について不動産競売の申立てをしたところ(平成一〇年(ケ)第一二三号事件。以下「競売事件」という。)、平成一〇年三月一三日、千葉地方裁判所松戸支部(以下「執行裁判所」という。)は、競売開始決定をした(甲第二号証)。
3 競売事件における債権届出等
競売事件において、原告は、執行裁判所に対し、常盤開発に対して有する債権として金三億一七八〇万八三六五円(元本二億一二二〇万円、利息・損害金一億五六〇万八三六五円)の債権届出をし、被告は、執行裁判所に対し、同じく金二七億二一五八万〇五三八円(元本一七億七七七一万六五三四円、利息九億四三八六万四〇〇四円)の債権届出をした(甲第二ないし第五号証、弁論の全趣旨)。これらの債権はいずれも本件の各根抵当権の被担保債権に属するものである(弁論の全趣旨)。
そして、本件各共有持分及び本件建物は一括競売された。
4 競売事件における配当
平成一一年一二月二日の配当期日において、原告は、別紙配当表記載のとおり、手続費用金二九七万五六四六円のほか、本件根抵当権<1>に基づき金五六三六万五一七三円、本件根抵当権<2>に基づき金一一六六万七三七二円の合計金六八〇三万二五二四円の配当を受け、被告は、本件根抵当権<3>に基づき金一億二一五二万一八〇九円の配当を受けた(甲第四号証)。
5 原告は、右配当期日において、配当異議の申出をしなかった。
二 主要な争点
1 配当期日に他の同順位抵当権者への配当に対して配当異議の申出をしなかった同順位抵当権者は不当利得返還請求権を行使し得るか。
(被告の主張)
同順位抵当権者間の関係は、優先関係がなく、競合関係となる一般債権者間の関係と類似の関係にあるから、一般債権者の場合と同様、配当期日に他の同順位抵当権者への配当に対して配当異議の申出をしなかった同順位抵当権者は、不当利得返還請求をすることはできないと解すべきである。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
2 同順位根抵当権者に対する配当方法及び被告の不当利得額
(原告の主張)
(一) 同順位根抵当権者に対する配当の方法としては、それぞれの根抵当権極度額を按分の基準とするのが正当である。
そうすると、金一億〇七七五万〇〇四八円について被告は法律上の原因なくして利得を得ており、右利得は原告が競売事件において本来得べかりし配当を失ったことによるものであるから、原告の損失となる。
(二) 仮に、届出債権額を按分の基準とするものであるとしても、按分の基準となる届出債権額は、当該根抵当権の極度額が上限となるべきである。
そうすると、金七八八二万一三五八円について被告は法律上の原因なくして利得を得ており、右利得は原告が競売事件において本来得べかりし配当を失ったことによるものであるから、原告の損失となる。
(被告の主張)
(一) 同順位根抵当権者に対する配当の方法としては、申立て又は届出の債権額を按分の基準とするのが正当である。
そうすると、執行裁判所による配当額は正当なものであるから、被告には不当利得は発生していない。
(二) 仮に、極度額を上限として届出債権額を按分の基準とした場合は、被告の不当利得額は金六八〇〇万四三八九円となる。
第三当裁判所による判断
一 争点1について
抵当権者は、抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有しており、他の債権者が債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けたために、右優先弁済を受ける権利が害されたときは、右債権者は右抵当権者の取得すべき財産によって利益を受け、右抵当権者に損失を及ぼしたものであって、かつ、配当期日において配当異議の申出がされることなく配当表が作成され、この配当表に従って配当が実施されたことによって係争配当金の帰属を確定するものではなく、したがって、右利得に法律上の原因があるとすることはできないから、抵当権者は、不動産競売事件の配当期日において配当異議の申出をしなかった場合であっても、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた債権者に対して、その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の返還を請求することができる(最高裁平成二年(オ)第一八二〇号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号三二二頁)。
そして、同順位の抵当権者甲・乙間においても、甲が本来受領することのできない配当を受けた場合、これは、右配当の範囲内では、甲が優先権を有しないにもかかわらず配当を受け、それによって乙の優先弁済を受ける権利を害するものであるということができるから、甲は乙の取得すべき財産によって利益を受け、乙に損失を及ぼしたもので、右利得には法律上の原因がないと解すべきであり、乙は、配当期日において配当異議の申出をしなかった場合であっても、甲に対して不当利得返還請求をすることができるというべきである(なお、配当期日に配当異議の申出をしなかったことによって直ちにその権利を放棄したなどということはできないこと、また、不当利得返還請求権の行使が信義則に反するなどとということができないことは明らかである。)。
二 争点2について
1 根抵当権は、普通抵当権とは異なり、極度額の範囲内において不特定の債権を担保するものであるが、元本の確定によって、根抵当権は不特定の債権の担保権という性格を喪失し(元本債権の利息・遅延損害金については極度額まで優先弁済を受けることができるという意味においてのみ、不特定の債権の担保権としての性格を有しているにすぎない。)、原則として普通抵当権と同様に取り扱われることとなる(確定後においては、普通抵当権と同じく、随伴性が認められ、また、根抵当権の順位の譲渡、放棄等の処分が認められる。)。
そして、抵当不動産に対する競売手続が開始された場合、根抵当権は、根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始を知った時から二週間を経過したときに確定する(民法三九八条ノ二〇)のであり、配当期日において、本件の各根抵当権の元本が確定していることは明らかである。
そうすると、このように元本の確定した同順位の根抵当権が存在する場合の配当は、同順位の普通抵当権が存在する場合と同様に、被担保債権の額により按分して行うべきである。ただし、根抵当権についての極度額の定めは、配当を受けることのできる第三者に対する優先弁済権の制約としての性質を有するから、被担保債権額が極度額を上回る場合は、極度額を上限とするべきである(なお、被告は、同順位根抵当権が存在する場合の配当に関しては民法三九八条の一四が準用されるべきであると主張するが、同条は一つの根抵当権を権利者が共有する場合の規定であって、別個の根抵当権が同順位で併存する場合にこれを準用するのは相当でない。)。
2 そして、共同抵当権の目的となっている不動産を同時に売却して配当すべき場合には、売却された各不動産の価額(ただし、当該不動産の売却代金額から共同抵当権より先順位の担保権等に対する配当額《共益費用、租税債権を含む。》を控除したもの。)に応じて被担保債権を按分して割り付け、各不動産ごとの被担保債権の負担額を定め、それぞれの不動産からはこの負担額を上限として配当を受けることとなる(民法三九二条一項参照)。
3 以上を前提とすると、本件においては、原告及び被告が本来受けるべき配当額は以下のように算定される。
(一) 本件共有持分<1>の最低売却価額は金三五三四万円、本件共有持分<2>の最低売却価額は金二一九一万円、本件建物の最低売却価額は金一億三五二八万円であり、一括競売による売却代金額は金一億九二五三万円であるから、本件共有持分<1>に割り付けられる売却代金額は金三五三四万円、本件共有持分<2>に割り付けられる売却代金額は金二一九一万円、本件建物に割り付けられる売却代金額は金一億三五二八万円となる(乙第二号証)。
(二) 競売事件における手続費用を本件各共有持分及び本件建物の売却代金額に按分して割り付けると、本件共有持分<1>に割り付けられる手続費用は金五四万六一九七円、本件共有持分<2>に割り付けられる手続費用は金三三万八六三〇円、本件建物に割り付けられる手続費用は金二〇九万〇八一九円となり(乙第二号証)、按分計算の基礎となる本件共有持分<1>の価額は金三四七九万三八〇三円、本件共有持分<2>の価額は金二一五七方一三七〇円、本件建物の価額は金一億三三一八万九一八一円となる。
(三) 前記争いのない事実等に記載のとおり、原告の被担保債権の額は金三億一七八〇万八三六五円であるところ、これを本件各共有持分及び本件建物の前記価額に按分して割り付けると、原告の被担保債権についての本件建物の負担額は、金二億二三三〇万六〇五九円となる。
(四) 前記争いのない事実等に記載のとおり、被告の被担保債権の額は金二七億二一五八万〇五三八円であるところ、被告の本件建物に対する根抵当権の極度額は金一億五〇〇〇万円である。
(五) そうすると、本件建物についての配当は、本件建物の前記価額金一億三三一八万九一八一円を前記金二億二三三〇万六〇五九円と金一億五〇〇〇万円の額で按分して行うこととなる。
(六) したがって、本件建物から受けられる原告の配当額は、金七九六一万一七六一円(一億三三一八万九一八一円×二億二三三〇万六〇五九/《二億二三三〇万六〇五九円+一億五〇〇〇万円》)となり、被告の配当額は、金五三五一万七四二〇円(一億三三一八万九一八一円×一億五〇〇〇万/《二億二三三〇万六〇五九円+一億五〇〇〇万円》)となる(以上につき、別紙計算書参照)。
4 ところで、被告は、本件建物から金一億二一五二万一八〇九円の配当を受けているから、結局、被告は、金六八〇〇万四三八九円(一億二一五二万一八〇九円-五三五一万七四二〇円)を不当利得していることになる。
三 結論
よって、原告の本件請求は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき金六八〇〇万四三八九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一二年二月二六日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し(なお、被告は、被告の原告に対する不当利得返還債務の履行遅滞については違法性がなく、原告による遅延損害金の請求には理由がない旨主張し、その根拠として、被告は執行裁判所が定めた配当金を受領したにすぎないこと、本件は実質的に配当異議訴訟と同じであり、配当異議訴訟では遅延損害金は請求できないから、これと同列に扱うべきであること、配当異議を申し出なかったのは原告の一方的な懈怠であって被告には何ら落ち度はなく、遅延損害金請求を認めることは公平に反することなどを挙げるが、被告が原告に対して不当利得返還債務を負っている以上、遅くとも訴状送達の日の翌日から右債務は遅滞に陥っており、かつ、その遅滞に違法性がないとはいえないことが明らかである。)、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大坪丘 裁判官 浦木厚利 裁判官 辛島明)
(別紙)
物件目録
一 所在 柏市柏三丁目
地番 七九八番四
地目 宅地
地積 三三〇・五七平方メートル
二 所在 柏市柏三丁目
地番 七九八番一〇
地目 宅地
地積 二〇四・九五平方メートル
三 一棟の建物の表示
所在 柏市三丁目七九八番地四、七九八番地一〇
建物の番号 常盤開発ビル
専有部分の建物の表示
家屋番号 柏三丁目七九八番地四-一
種類 事務所・共同住宅
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根五階建
床面積 一階部分 二七・〇二平方メートル
二階部分 三四二・六七平方メートル
三階部分 二八三・六四平方メートル
四階部分 二八四・〇三平方メートル
五階部分 二八四・〇三平方メートル
(別紙)
根抵当権目録
一 極度額 金一三億円
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
債務者 常盤開発
根抵当権者 原告
二 極度額 金一三億円
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
債務者 常盤開発
根抵当権者 原告
三 極度額 金一億五〇〇〇万円
債権の範囲 金銭消費貸借取引 手形債権
小切手債権 保証取引 手形割引取引
債務者 常盤住宅販売株式会社
根抵当権者 被告